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学生時代の思い出

院長の西園です。私が宮崎医科大学の学生だった頃のお話です。医学生には通称ポリクリと呼ばれる、病院での臨床実習があります。その日は耳鼻咽喉科の教授診療に立ち会うプログラムでした。M教授は豪放磊落な方で、学生たちにはとてもフランクに接して下さる反面、不勉強だとたちまち雷が落ちてくるため、慕われると同時に恐れられてもいました。

診察室へやって来られた受診者は、口の中に病気があるようです。M教授と一緒に診せていただき、後で実習生が各々その病気を診断することになりました。おずおずと口腔内を覗き込むと、白っぽくて丸く平坦な病変がみられます。ものを食べると沁みて痛むということでした。まるで口内炎のようですが・・・

患者さんが退席された後、M教授の諮問が始まりました。学年でトップクラスの秀才H君は「ロイコプラキア(口腔白板症)」と見立てました。関東出身で今は整形外科医になっているN君は「オーラル・キャンサー(口腔癌)」と答えました。

悪性としては辺縁が滑らかだし表面も凸凹してはいないけどなぁと思いあぐねていましたが、ついに私の番になり「君の診断は」とお尋ねがありました。変な回答をしたら叱られてしまうと緊張し、考えが纏まらないまま咄嗟に「アフタ(口内炎)」と口走ってしまいました。その瞬間、周りの仲間たちが凍り付いたように静かになりました。わざわざ口内炎で大学病院へやって来る人はないだろうという彼らの心の声が聞こえてくるかのようです。身も縮む思いでしたが、少しの間を置いた後、M教授からは破顔一笑「正解!」と言っていただきました。先入観に捉われず、素直に疾患を診なさいという教えでした。

畏れ多いM教授に褒められて、しばらくの間は皆から耳鼻咽喉科へ入局させてもらえよと冷やかされました。結局、内科を専攻しましたが。

それにしても大学病院になぜ口内炎の方が受診されたのか、今もって謎です。え、口内炎ですか? 写真にある白っぽくて丸い、周囲が赤くなっているのがそれです。昨日、私の下唇にできました。疲れが溜まっているのかな。ものを食べると沁みて痛みます。

実習から35年以上も経ちましたが、口内炎ができると鮮明にあの時の光景を思い出します。

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